AIの未来

オープンAIの「チャットGPT」や米グーグルの「Gemin(ジェミニ)」は、びっくりするような体験をもたらしてくれています。私の仕事もこれらの生成AIに非常に助けれれています。この先ももっと改良されるのではと期待していますが、一方で成長の鈍化を指摘する声もちらほら出てきました。

代表的なものは、「言語モデルの学習に必要なテキストはほぼ学習しつくしてしまった。」というものです。現在存在する大規模言語モデルは多少の差はあれ、全てのインターネット上のデータを利用し、吸収すべき追加データは底をついてきているといいます。これを補うために、AIが生成したテキストをソースとする方法もありますが、これは自動運転AIで失敗が証明されています。

もう一つは、電力です。IEA(国際エネルギー機関)が2024年1月に発表した電力に関するレポートによると、生成AIなどの影響で電力需要が伸びています。2022年には消費電力量が世界全体で約460TWh(テラワット時)だったのに対し、2026年にはその倍以上の約1,000TWhに達する可能性があるとしています。この電力の増分をすべてグリーンエネルギーで賄うことはできないと思われます。これは子供が一気に増えて、家計を圧迫しているような状態でしょうか。

大きな揺り戻しを繰り返しながらAIは私たちの生活に浸透してくるのだと思いますが、この揺れをよく見ていくことが大切になると思います。

“ナレッジマネジメント”最初の一歩

P.F.ドラッカーが「プロフェッショナルの条件」などで指摘した「ナレッジワーカー(知識労働者)」とは、以下の2つに集約されます。

  • 組織の目的に貢献して初めて成果になる
  • 自分の成果を他の人間に供給することに意味がある

この大前提がズレていると、どんなにシステムを立派にしても、また複雑なルールを作っても組織内でナレッジマネジメントを定着させていくことが困難です。

組織全体に「自分たちの会社は、ナレッジをもとに付加価値を提供している。その会社を支えているのは、私たちナレッジワーカーだ。ナレッジワーカーは、組織の目的のために新しい成果を生み出し他のメンバーに共有するものだ。」という共通認識=文化を作ってい行くのだとマネジメントが強く認識することが大切なスタートとなります。

生産性の罠

「ヒト・モノ・カネ」をうまく組み合わせ、効率を上げ生産性を向上させる。どの企業も生き残りをかけてこの課題に取り組んでいます。重要視されているのが、モノの世界ですね。無駄をなくす、統合するというところで、トヨタ式カイゼンやシックスシグマなどです。

これは私の好きな思想家の山口週さんが書かれていることなのですが、「ヒト」だけにあって「モノ・カネ」にない特性の一つに「資源の可変性」があるそうです。「モノ」も「カネ」も一度「量」が確定すればその後に変わることはないのですが、「ヒト」はモチベーションにより大きく出力が変わるということです。

さて、生涯において、驚異的な生産性を発揮した一人として、史上最高の画家・レオナルド・ヴィンチさんがいます。彼は、芸術だけではなく工学・建築・自然科学・政治・外交においてもその手腕を発揮した人です。で、私などは、「お金があって、時間もたくさんあったからそのような活躍ができたのだろう」と思ってします。しかし、ダヴィンチも私たちと同じように経済的な悩みを抱えていて、常に資金不足に悩んでいたそうです。しかし、貴族からの作品依頼には全く応えずに自分のやりたい事しかしていませんでした。(ダビンチの完成作品は、10程度。ピカソは、15万点)

効率的に仕事を実行して多くの成果をあげたのではなく、経済的に厳しいなかでも自分が本当に興味を持ったことに全神経を集中して仕事をして、結果として広い分野に多くの実績を残したようです。

ひるがえって、多くの企業の現場では、生産効率を上げるために様々な施策を打っていますが、実はそのことがヒトの「資源の可変性」を著しく下方に押し下げてしまっている現場が多いように思います。

日本の労働生産性は、G7最下位ですがこれを上げるのは、改善+「ヒトの好奇心に向き合う」という組織作りも必要なのではと思いました。

成功事例の罠

ビジネスの世界は、うっとりするような成功事例があふれています。短期間で資金を集めたスタートアップ企業、成長が止まっていた老舗企業を成功に導いた企業戦略など、成功事例は広く喧伝されます。そして日々課題に頭を悩ましているビジネスパーソンは、その情報に飛びついてしまいます。

一方でその何倍もあるであろう失敗は静かに消えゆくのみであまり表に出てきません。特定の要因が常に失敗に導くのであれば、その要因を突き止めることはとても重要なはずにもかかわらずです。また、成功はまぐれもありますが、失敗は決定的な原因があることが多いです。プロ野球の名将、野村克也監督の「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。」の通りだと思います。

では、どう意思決定していけばよいのかというと、反対意見をしっかりと受け止めることだと思います。ピーター F. ドラッカーが書いたように、「意思決定の第1の規則は、反対意見が出てこないならば意思決定はしないこと」です。まずは、反対意見が出るようなプランであることが大切なのだと思います。(もしくはそのような組織体制) その上で、貴重な反対意見を丁寧に聞き取りながらその意思決定に潜む罠にしっかりと対応していくことが大切なのだと思います。

行動変容のためのマニュアル

ある修道院でのお話です。

修道院の教育係は、新人の修道女が入るたびに、「なぜ私たちは祈るのでしょうか?」と問います。新人たちは、「神様に近づくため」とか「穏やかな気持ちになるため」などと答えます。しかし、教育係はこのように伝えるそうです。

「私たちが祈る理由は一つしかありません。それは、祈りを告げる鐘が鳴るからです。」

何かを習慣づけるということはなかなか難しいものです。その対策として、その重要性や罰則などで行動変容を促す仕組みのマニュアルもよくあります。マニュアルに習慣化してほしい行動の目的や重要性を書くことはとても大切ですがそれだけではうまくいきません。

修道院の逸話が教えてくれているのは、習慣のモデルは「きっかけ→行動→報酬」ということです。

マニュアルを見直す時、業務フローを見直す時、行動のきっかけとその報酬がわかりやすくなると習慣化に結び付けられます。

  • 出社したらまずは机を整理する。きっかけ:出社→行動:机の整理→報酬:気分すっきり
  • 顧客に合う前に前回の商談メモを見直す。きっかけ:顧客のビルのロビーに入る→行動:メモを見直す→報酬:スムーズに商談に入れる

これらは、業界や業務により様々だと思いますが、うまくいった習慣化のしくみが共有されると強い組織になれるはずです。

企業劇場の脚本の見直しとマニュアル

ある企業の活動を仮に「劇」と、とらえてみます。
スポンサーは株主、舞台監督は経営層、そして多くの社員は役者ということになると思います。
では、脚本家は誰でしょうか?いろいろな考えがあると思うのですが(そもそも空想なので、、、)私はこれも社員ではないかと思っています。
そして書かれた脚本はマニュアルだととらえています。
社員という役を演じている多くの役者のなかで、、「この会社は100点満点だ!、素晴らしい!!」と思っている人は少数派だと思います。みな、必死に役を演じながらも、「ここがもう少し、、、」とか「この仕組みはひどい!」などと思っています。
問題なのは、その考えやアイディアを活かすには、いろいろな障壁があるということだと思います。
では、簡単にマニュアルを改定できる仕組みがあればどうでしょう?
多くの社員が演者兼脚本家として劇を現場視点で面白く生き生きとさせていければ良い舞台ができると思うのです。
マニュアルを通じた業務改善にはそんな可能性があると思っています。

温暖化対策ターニングポイント

気候変動による熱波や暴風雨、洪水による被害が拡大する中、温室効果ガスの削減は思うように進んでいません。そのような状況に対して、「気候工学」という手法で課題にアプローチする取り組みが増えています。

「気候工学」とは、気候変動の影響を軽減するために、気候システムを大規模かつ人為的に操作する技術や手法の総称だそうです。

具体的には、「塩分を含む混合物を高圧ノズルで空中に散布し海上にできる雲で海面を日陰にする(オーストラリア)」、「高度約6万フィート(約18キロメートル)の大気中に微小な反射性粒子を大量に散布し、太陽光を遮って地表を冷やす(イスラエル)」、「海洋に水酸化ナトリウム溶液を注入し海面の酸性度を下げ、大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収し、安全な状態で海中に閉じ込める(アメリカ)」といった計画です。

これまでは体質改善により温暖化という病気に対応してきていた人類でしたが、ついに対処療養(外科的、短期的)にを実施せざるを得なくなってきたということだと思います。

マニュアルを通じて解決するアジェンダ(課題)とは?

日米の企業比較は様々なシーンでなされていますが、ちょっとドキッとした数字が以下です。

「米国のS&P500企業の時価総額の90%以上はすでに無形資産となっている。一方で日本企業のそれを確認してみると30%程度に過ぎない。」

これは、読み直すと優秀な米国企業は「意味的価値」を高めてきた一方で、
日本の企業は「モノ的価値」の世界から卒業できずにいるということだと思います。

では、「意味的価値」はどうやってたかめていけばいいのかというと、
伝説の起業家・投資家のピーターティールが面接で行う次の質問に大きな示唆があるように思います。

「世界に関するアジェンダのうち、多くの人は認めていないが、君自身が重要と考えているアジェンダは何か?」

残念ながら、今の私はピーターティールの面接では評価を得られそうにありません。

マニュアルを通じて解決したいアジェンダ(課題)として、以下を挙げていますがいずれも多くの人が認めているものです。

  • 業務効率化(非効率な業務)
  • 技術伝承
  • 改善体質づくり

当社が取り組むべきアジェンダについて、根本から考え直す必要がありそうですし、
そのことによって広がる可能性にワクワクします。

文化人類学とマニュアル

『菊と刀』の著者である、文化人類学者ルース・ベネディクトは、「レンズ」という比喩を用いて「行動の前提としての文化」を説明しました。

「どの国の人々も独自のレンズを通して世界を統覚している。そのレンズを通して与えられた世界はあまりにも自然なため、意識する(メガネをはずすこと)は難しい。そのような時は眼科医(文化人類学者)が必要になる。」

ルースは「菊と刀」を通じて、当時のアメリカ人に自分たちのメガネを意識することを訴えています。

マニュアルを作っているなかで、「自分たちが当たり前と思っていたことが、そうではなかった。」となることがよくあります。

日本企業による不祥事が相次いで起こっている背景にある各組織の文化(隠す文化、ごまかす文化、上に物言えない文化)、あまりに自然なレンズを通して与えられた世界だからこそ、問題が大きくなるまで誰も気が付かないのかもしれません。

マニュアルは万能ではないですが、レンズ(メガネ)を外すことのきっかけになれるような眼科医なれるようにしていきたいと思います。

情報と知識

野中郁次郎は、「知識経営のすすめ」のなかで情報の時代と知識の時代を以下のように分けています。

情報の時代

  • 有形(ハード)資産が価値の源泉
  • 工場(製品)が利益を生み出す
  • ホワイトカラーが情報処理
  • 階層化・分業、特例的協業
  • 定型的業務プロセス
  • ホワイトカラーは管理費:人員削減は利益創出

知識の時代

  • 無形(知識)資産が価値の源泉
  • 人と組織(知)が利益を生み出す
  • 知識ワーカーが知識活用・創造
  • 多元的組織・チーム、協業が基本
  • 非定型的業務、動態的プロセス
  • 知識ワーカーは「生産原価」の発想:投資すれば価値創造

組織の戦略を考える上でも、ナレッジマネジメントシステムを構築する上でも、情報と知識の違いを明確に意識するためにする必要があります。